コラム

子どものケータイ利用に深まる教師の悩み(上) - 下田博次


 ■多様化、複雑化する教師の課題


 このところ各地の教育委員会で子どもの携帯電話利用を問題視する声が高まっている。しかし、業界関係者はもちろん小中高の教師の中にも「ケータイで悪いことをするのは一部の子ども。騒ぎすぎだ」という者はいるし「インターネットができる技術的に高度なケータイを積極的に授業に生かすべきだ」という教育学者や教育委員会、教員などもいる。ケータイ(モバイル・インターネット)が、日本の子ども社会に急速に普及して10年。はたして学校関係者、とりわけ現場の教師は携帯電話利用の広がりと定着を歓迎しているのだろうか。この最先端技術を駆使したメディアは、学校教育を助けているのだろうか。ここでは、問題に直面する教師の立場にたって子どもの携帯利用問題を考えてもらう材料を少々提供したい。


 私はこの10年間、主として中高生など思春期の子どもらのケータイ問題に向き合ってきたが、あるときから現場のまじめな教師の方々に同情せざるを得なくなってきた。特に私の研究室には、日夜生徒の生活指導、相談に取り組んでいる生徒指導や養護教員からのお尋ねや相談が多い。


 最初に研究室にやってきたのは高校の生徒指導教員だった。それが中学に降り、さらに最近は中学の養護教員や教頭、学校長など顔ぶれも変わってきた。相談の内容も、生活指導、校則違反から非行、犯罪的トラブルまで年々多様化、複雑化している。

 まず生徒指導教員のケースであるが、彼らが抱えるトラブルの内容はときとともに変化してきた。携帯電話が普及し始めた2000年秋の話だが、教師が急に学校(高校)に出てこなくなった生徒の家に連絡したところ、保護者から「携帯電話がないので仲間はずれにされて、学校に行きたくないと言っている。そういういじめをきちんと指導できないのですか。」と詰問されたと困惑気味に語った。そのころは未だ、高校生ならケータイ持って当たり前という状況ではなく、教師も親も、新奇なメディアの流行を前にして戸惑い、苛立ちをみせていた。保護者のなかには「携帯電話はお金もかかるし、勉強に必要なものではないはず。しかし親の口からきついことは言えないので、先生が学校できつく指導してくれませんか」という声も少なからずあった。しかし、そうした声はたちまちかき消されてしまう。


 たとえば2001年6月14日の読売新聞に、次のような見出しの記事があった。


 「心病む教師、生活、進路指導、親とのトラブルで不眠症に・・・」


この記事は、携帯電話でイタズラを繰り返す生徒の親に携帯電話を取り上げるように言っても聞く耳持たないし呼び出しにも応じない。そうした携帯電話問題で親とのトラブルに悩んだ教師が、ノイローゼ状態になったというものである。私の知る範囲でも、このような事例がいくつかあり、そのうちに珍しくもない状態になった。例えば初期の典型的相談事例(高校教師)として、2001年6月の次のような相談メールがある。


 「携帯電話を授業中使ったのでとりあげるのですが、相当に神経を使う。子どもらは携帯電話に相当神経質になっており、教師に利用の中身を知られることを極度に警戒している。保護者も生徒の側について携帯電話の取り扱いに文句をつけてくる。それで、取り上げるにしても、お預かりします、と言ってボックスにいれて鍵をかけたりしなくてはならない。こんな馬鹿げたことをなぜしなくてはならないのでしょう。」


実際に、その後高校や中学でも、学校で携帯を取り上げたところ生徒が逆上して教師に暴力を振るったというニューズが流れるようにさえなった。携帯電話は生徒の非行を増やすだけでなく、授業妨害の道具にもなってきた。そのため学校内ではルールを作ったりしているが違反も多く,違反をとがめると逆に親が怒鳴り込んでくる。当時、学校へのケータイ持ち込み禁止で規則を守らせようとやっきになっていた意識のある校長も、ある時期からこんなことを言うようになってきた。


「朝、校門に立って生徒におはようと呼びかけているが、生徒のズボンのポケットからケータイの紐がプラプラ出ている。そのシッポを掴んで引きずり出したいが、できない」


 そうこうするうちに、高校で不要な携帯電話の所持が当たり前になり、さらに中学ばかりか小学校でも,各家庭で携帯を買う・買わないで親子げんかまで発生。そのため小中校の教師が、親の悩み相談にまで乗らなければならない状態にさえなっていった。




つづき
 子どものケータイ利用に深まる教師の悩み(中)



■下田 博次(しもだ・ひろつぐ)
NPO法人青少年メディア研究協会理事長
シンクタンク勤務から雑誌記者、放送番組制作などを経て現職。
警視庁少年インターネット利用問題研究会座長、インターネットの危険・有害性から子どもたちを守るためのウェブサイト「ねちずん村」を主宰。
著書に「学校裏サイト」「インターネット・リテラシー~子ども達の携帯電話・インターネットが危ない~」などがある。